大絶滅通信WEB4

そこでヌートリアがダンスをしていた。2匹のヌートリアが腕を組んでステップを踏んでいる。僕は彼らをぼんやりと見ながらさっき買ってテイクアウトにしてもらったアイスコーヒーを飲んでいる。15分ほどそうしていると、先ほどあったことなど大したことでは無いよな、という気持ちになってきた。もう少しここでヌートリアのダンスを見ていよう、見始めよりもだいぶ白熱してきている。ヌートリアにもダンスにも全然興味は無かったが、いまの僕にはピッタリな気がする。

引き続きダンスを見ていると、右から男女のカップルが来て、驚いた様子で立ち止まり、女のほうが言った。

「見て!ヌートリアがダンスしてるのを見ながらマナティーがコーヒー飲んでる!」

死んだ山羊の墓4

子供の頃、安室奈美恵の服装と安室奈美恵風の服装が大嫌いだった。そのあたりから地獄は始まっていたのかもしれない。

皆と趣味が合わなかった、合わない、だから勝手に好きな服を着ます、好きな音楽を聴きます、好きな映画を観ます、という人間は「自分らしく好き勝手する」のに必要な負担を日常的に負う。自覚してたりしてなかったりするが、とにかく負う。社会はそうじゃない人間を基準に作られているからだ。「自分らしく好き勝手」しようともがいてるだけで人生が終わったりもする。それは豊かな人生だろうか。よく分からない。

ぼくはある程度好き勝手しているが、それはめちゃくちゃ運が良かったからだ。運の良い人だけが好き勝手できるし、社会に異を唱えたりできるし、運の良い人だけが愛を語れるし、生きてて良かったと感じられる。もっと言うと運の良い人だけが生存できる。医療や福祉なんかがそこを多少どうにかしたりしたが、焼け石に水ですね。ではどうすればいいか、滅びましょう。出た〜〜。

豊かな人生と言うものについて考える。基本的な話ですが「幸せだったな〜」と思いながら死ぬやつは本当にダメ。自分は幸せだったかもしれないが、周りを見ろよ。めちゃめちゃ鈍感か世の中の良くない物事から目を背ける才能がある人だけが幸せに暮らし幸せに死ねるんだね。皆さん良かったですね。

大絶滅通信WEB3

地も天も無い真っ白な世界の中にウィープ・イールだけが存在していたこともあったが、今は地があり天がありウィープ・イールの他に3人の人間がいる。名は背の高い順にミィク、イァイク、ダイナマイト・ジョーと言う。ウィープ・イールは彼ら3人には見えない。ウィープ・イールはある日寂しくなって、彼らにそれぞれ話しかけてみた。ミィクにはウィープ・イールの声は聞こえなかった。イァイクにも聞こえなかった。最後にダイナマイト・ジョーに話しかけた。

「私の声が聞こえるか?」

ダイナマイト・ジョーはあたりを見回してから、どこからか聞こえる声に返事をした。

「お前は誰だ?どこから声をかけている?」

私はウィープ・イール。ウィープ・イールがそう返事をする前に側にいたミィクが言った。

「おいダイナマイト・ジョー、なんか言ったか?」

イァイクも言った。

「お前は誰だ?って言ったな。何のことだ?」

ダイナマイト・ジョーは戸惑いながら答えた。

「どこかからお前たち以外の声が聞こえたんだ」

ウィープ・イールは少し様子を見てみることにした。ミィクが少し苛立った声で言った。

「そんな訳が無いだろ。ここには俺たち3人しかいない」

ダイナマイト・ジョーは弁解した。

「いや確かに聞こえた。『私の声が聞こえるか?』とな」

譲らないダイナマイト・ジョーにミィクはさらに苛立って彼の肩を叩いた。ダイナマイト・ジョーは叫んだ。

「痛え!何をする!」

するとイァイクが怒鳴った。

「大袈裟に騒ぐんじゃねえ!」

イァイクもダイナマイト・ジョーの肩を叩いた。ダイナマイト・ジョーはさらに叫んだ。

「やめろ!痛え!」

その様子を見てミィクはニヤニヤして、またダイナマイト・ジョーの肩を叩いた。それに続いてイァイクが、今度はダイナマイト・ジョーの顔を叩いた。ミィクも顔を叩いた。イァイクも叩いた。ダイナマイト・ジョーはついにしゃがみこんで泣いてしまった。

一部始終を見ていたウィープ・イールは薄笑いを浮かべ言った。

「面白くなってきたな」

 

 

 

 

 

 

死んだ山羊の墓3

自分の事を「趣味の良いボンクラ」だなと思った。趣味の良さが取り柄なやつは本当だめ。ちなみに読書量が取り柄なやつも本当だめ。趣味の良いボンクラは皆鬱になります。俺の周りの趣味の良いボンクラは皆なってるよ、鬱に。何故なのかは自明なのでわざわざ言わないが。人は人と話さないと自分が何者なのかは分かってこないらしい。僕は人と話すたび、自分が分かってきて、そして忘れる。忘れるので忘れないようにブログに記そうと思った。僕は「趣味の良いボンクラ」だ。そう、年明け早々人に会いました(普通だね)。楽しかったね〜。あと、使っていいお金を計算しないでクソ高い良いメガネを買ったらお金が全部無くなってしまいました、これも趣味ボン(趣味の良いボンクラの略)エピソードですね。趣味が良いと身につけてるものが身の丈に合っていなかったりしますよね〜。皆さんの「趣味の良いボンクラエピソード」お待ちしてま〜す。終わりです。

 

大絶滅通信WEB2

〈エンジン〉と皆が呼ぶ巨大な機械のものすごい音が響く中央公園で僕はポティと再会した。僕が「こんな所で何してるの!?」と叫ぶとポティは何か言ったけどまるで聞こえなかった。

「何言ってるか全然分かんない!」

と更に大声で叫ぶとポティは僕の右手を掴み、出口を指差した。

僕たちは近くの適当な喫茶店に入り座った。頼んだコーヒーはすぐに届いた。ぼくが改めて「あんな所で何してたの?」と聞くと、ポティは笑顔で答えた。

「〈エンジン〉にね、爆弾を仕掛けてたんだ。エンジンはもうすぐ爆発するよ。あのうるさい音とも、もうさよなら」

ぼくは困った顔になっていたと思う。その顔で言った。

「そういう事を言うの、良くないよ」

「でも本当に爆弾を仕掛けたんだよ」

「何で?」

「〈エンジン〉が私たちを断絶させているから。あの音が私たちの言葉を遮るようにね」

ぼくはポティが何を言っているのか全然分からなかったのでそのまま言った。

「何言ってるか全然分かんない」

ポティは目を逸らして言った。

「すぐ分かるよ、もう時間になるから外に出よう」

僕らは店を出た。店を出たらピュポンが沢山いて、全員こちらを向いていた。銃もこちらを向いていた。そしてポティは連れて行かれた。

そして〈エンジン〉が爆発した。うるさい音は止まった。

〈エンジン〉は爆発したけれど、僕はポティの言った事が未だに全然わからない。静かで良いな、それくらいは思う。

ポティがあの後どうなったのか僕は知らない。死んだんじゃないかな。

 

無謬の機械1

12月下旬というのは自分へのクリスマスプレゼントや自分への誕生日プレゼントで出費がかさむな。クリスマスプレゼントは「カセットテープの音源をデジタルデータに変換する機械」で、ちょっと早いが誕生日プレゼントは調理用の温度計でした。温度計はコーヒーを淹れるのに使うお湯の温度を計りたかったので。今までは雰囲気でやっていたので。f:id:mubyu:20181228123858j:imagef:id:mubyu:20181228123903j:image

死んだ山羊の墓2

『ビギニング・ビギニング』というタイトルの長くなりそうな漫画を描いているし、同時に『病気のアールリナ』という、やはり長くなる漫画を描いている。『エルビス・プレスリーのおはぎ』以来すっかり「短編より長いやつのほうがぼくにとってナイスだな」という気持ちになっている。どうもぼくは描きたいものをちゃんと描くには100ページくらいの分量が必要みたいで。 短編より長編のがより多くのことが言える、というのはあまり重要ではなく、それよりも長い話を描くと発生するノイズこそがめちゃめちゃ面白いような気がする。しかし修行が足りてないのでどうしてもノイズを削りたくなってしまう。『エルビス・プレスリーのおはぎ』はかなり削ってしまったし『病気のアールリナ』もかなり削ってしまっている。でも『ビギニング・ビギニング』は作品の大部分がノイズであるような感じでノイズとノイズを意味で繋いだようなものに今のところなっているのでニコニコです。明日には違う気持ちになっているような気もするが、頑張るぞ〜。

人生の大部分はノイズで、ノイズとノイズを意味で繋いだものが人生なのだと思う。トマス・ピンチョンの短編のどれかに「つまり、な。それは何かって言えば、おれたちの言うことの大部分なんて、まあ、大部分ノイズだよな」というセリフがあり、我々は言うこともする事も、その大部分はノイズなのだ。創作は意味だけをギュギュッとまるめて世に出せるのですごいですね。でもあなたがどんなに意味を込めて創作しても、あなたの人生は大部分がノイズですよ、どうします?先程ぼくは「ノイズこそがめちゃめちゃ面白い」と書いたけど、それは創作においての話であり実生活のノイズなんてクソでしょ。ピンチョンはどう思ってたのかな、これについて何か書いてたっけ?読んだのが昔すぎて忘れてしまいました。私は「死にましょう」と言いたくなってしまう。終わりです。